catch-img

【インタビュー】未来予測のプロフェッショナルが見出す「アート」×「サイエンス」によるこれからのコンサルティング

今回は電通コンサルティングでマネジャーを務める小林 勝司へのインタビューの内容をお届けします。

※インタビュー内容、所属、役職は取材当時のものです。(2023年7月取材)


後編はこちら >>


目次[非表示]

  1. 1.美大卒業後、クリエイティブとマーケティングの橋渡しを経験
  2. 2.シンクタンクでの未来社会研究と、社会潮流起点による新規事業の開発
  3. 3.「アート」×「サイエンス」で答えを出しにくい課題へ新たな視点を
  4. 4.「これってイケてるの?」ロジックだけではグロースは生み出せない
  5. 5.AI時代に残すべき「感性による判断」
  6. 6.感性の磨き方は「体験の蓄積」
  7. 7.「異能」人材を束ねるマネジャーとしての想い


美大卒業後、クリエイティブとマーケティングの橋渡しを経験


―――電通コンサルティング入社までのご経歴を教えて頂けますか?

小林:私は多摩美術大学を卒業後、新卒でハウスエージェンシーのクリエイティブ部門へ入社しコピーライターを務めるとともに、クリエイティブとマーケティングを一気通貫させる戦略を構築する業務を担当していました。

その後、マーケティング部門に異動し、マーケティング戦略支援業務に従事しつつ、数多くの消費者動向調査も手掛けました。例えば当時、ちょうどSNSやスマートフォンが普及し始め、学術界でも『弱いつながりの強さ』といった論文が注目されるなど、世の中のコミュニケーション手段がドラスティックに変わるタイミングだったので、そのような流れを汲んで、生活者の消費行動や価値観変化にどう影響を与えるのかといったことをテーマに様々な調査・分析を行いました。

そうした分析結果に基づき得られた新たな発見・発想を、エビデンスを伴いながら対外的に発信してサービスメニュー化し、新たな事業機会創出の場として機能させていきました。結果的に、色々なメディアへの出演や、企業や学術機関での講演活動もさせていただく機会が非常に増え、会社のプレゼンス向上にも寄与致しました。


―――ラジオのパーソナリティもされていたとお伺いしました。


小林:はい。朝のビジネス番組で、2クールほど(4ヶ月か5ヶ月程度)パーソナリティを担当していました。当時は、「ソーシャルグッド」な価値観、つまり「社会にいいこと」をするということが、若い人たちにとって「クールなこと」という動きが活性化していた時期でした。

ソーシャルメディアを活用した情報発信で、個人や組織のプレゼンスを高めている若い起業家の皆さんが増えている中、新たなコミュニケーション手段が生み出した新しい価値観をテーマに話をしていました。


シンクタンクでの未来社会研究と、社会潮流起点による新規事業の開発


―――その後、シンクタンクではどのようなご経験をされたのでしょうか?


小林:若者と言えば未来という流れで、ご縁があり、大手電機メーカーに属し未来社会研究を手掛けるシンクタンクに入社することになりました。そこでは2030年に向けた長期ビジョンの前提となる未来社会の研究や、それに基づく新規事業開発に従事致しました。

当時は「出島戦略」というものが流行っていて、ゼロイチの事業を大企業が作ろうとするときに、大きな組織の中では新しいアイデアを生み出すことは難しいため、あえてカルチャーの違う「出島」を軸に、ゼロイチのアイデアを吸収していくような手法が注目されていました。

そのため、そのような手法を使いながら、未来の社会潮流の分析を起点にして新しい事業を創り出すことをしていました。


―――コンサルタントとしては異色のご経歴ですね。


小林:そうですね。私としてはこれまでの経歴の特殊な部分、経験を自覚していて、デザイン専攻をバックグラウンドとした、感性やアートを重視する一面と、シンクタンクやマーケティングに携わってきたことによるロジックやサイエンスを重視する一面を持ち合わせています。

「アート」と「サイエンス」、この2つを組み合わせると、結構いろんな新しいことができるなということを、前職で特に経験させていただきました。


「アート」×「サイエンス」で答えを出しにくい課題へ新たな視点を


―――コンサルタントに転身することになりますが、電通コンサルティングへ入社した決め手はどのようなところでしょうか?

小林:2030年等の中長期的な未来を見通す中で、なかなか答えを出しにくい課題に対して、自分の感性・アートとロジック・サイエンスという2つの力を駆使して、より難易度の高い課題に取り組んで、社会に喜ばれることをしたいと感じていました。

事業会社では1つの領域を深掘りすることができますが、コンサルティング業界は幅広い領域で課題に取り組むチャンスがあると考え、中でも電通コンサルティングは、まさに自分が得意としている領域と会社が目指している方向性、いわゆる個人の目標と組織の目標が自分の中でかなり合致しているなと感じ、入社しました。


―――電通コンサルティングが掲げる方針が、ご自身の目指す方向性と一致したのですね。


小林:はい。コンサルティング業界ではサービスの同質化が進んでいると認識しており、よりユニークネスを磨いていかなければならないという課題が顕在化していると捉えています。業界におけるそのような課題意識とも、自分が目指す方向性が合致しているなと思いました。

VUCAの時代が到来している今、クライアントが求めている成長は、同質化したフレームワークやロジックのみからでは導き出せないっていうことを、社会が感じていると思うんですよね。
本気で一緒に未来を考えることや、本気で事業を成長させることは、一辺倒のやり方では不可能ですし、そのことにクライアントも気づいています。

電通コンサルティングであれば、同質化、コモディティ化しているコンサル業界を変えていけるのではないかと感じた部分がありました。数字やエビデンスが揃ってからではなくて、想像力や感性に基づいて素早く仮説を打ち出して議論を活性化するということが、コンサル業界に今必要な要素なのではないかなと思っています。ただロジカルに詰めていく作業を続けることは、クライアントが「面倒くさい」ことを代行する業者になってしまいます。

「こんな角度で社会を見ることができるんだ」とか、「生活者をこういうふうに捉えることができるんだ」とか、「未来ってこういうふうにポジティブに捉えることができるんだ」というような発見は、これだけ混沌として不確実性が高い現代社会の中で、企業が求めている要素だと思うのです。

そのような中で「新しい価値を一緒に生み出していきましょうよ。それが成長につながるので、僕らがまずはその起点となるような仮説っていうのをどんどん出します!」というスタンスのコンサルタントがいても良いのではないかと思っています。


「これってイケてるの?」ロジックだけではグロースは生み出せない

「これってイケてるの?」ロジックだけではグロースは生み出せない


―――電通コンサルティングのプロジェクトではどのような難しさがあるでしょうか?


小林:例えば長期経営計画策定を含むあらゆる意思決定で、やはりどこかで感性による判断を必ず経営陣は求めてきます。通常は95%がロジックで、5%だけ誰かの意見・アイデアを乗せる程度のことが多いです。

しかし、電通コンサルティングでは、「ロジックだけでは新しい価値は生み出せない物」と考える企業に対して、例えばロジックが60%で感性が40%というようにクリエイティビティを生み出すことを前提としたバランスの良いロジックの積み上げが求められています。

ある意味難しいですが、すごくユニークで、個性的なコンサルティング会社になり得ると思っていて、やりがいを感じますね。


―――ロジックだけでなく、感性的な判断を経営陣は求めているのですね。


小林:ロジカルなことはすごく重要でビジネスの共通言語としては必要不可欠だと思うのですが、クリエイティブな要素も判断には欠かせません。

これからやろうとしている事業に対して「これって本当にセンスがいいのか」「これってイケてるのか」「数字上は売上見込み、利益見込みが立っているが、本当にブレイクするのか」「今の若い人にこれは本当にマッチするのか」といった具合です。

より不確実性が高い時代だからこそ、数字だけでは判断しきれない状況で、背中を押してくれるもの、創造性や感性面での自信を、企業も求めているのでしょう。電通グループには、それらの問いに全て応えることができる、スペシャリティがありますよね。


AI時代に残すべき「感性による判断」


―――「感性的な判断」はAIによって代替されることが難しいように思えますが、どのようにお考えでしょうか?


小林:「AIにできるか否か」は私には分からないのですが、「感性や五感で判断する」ことは人間が果たすべき役割として恣意的に残していかねばならないことだと思っています。

最近では、AIが絵を描いたり、音楽を作ったり、人間が作ったものと区別がつかないクオリティのコンテンツをつくれるようになってきていますよね。

でもやはりクリエイティビティ、創造性という文脈においては、人間が果たす領域である部分を意図的に残していかなければいけないことだと思っています。

要するに、人間が創造的な生き物であり続けるために、人間とテクノロジーは融和的な関係であるべきと考えます。今後、倫理的な側面を踏まえながら、様々な角度で人間とテクノロジーの関係を検討していかなければならない時代に入っていますが、中でも「人に響くものなのか」という判断するところは、人間のために残していくべきだし、そのためにAIがあるべきだ、という考え方を持っています。

コンサルティング業務だけでなく、いわゆるホワイトカラーといわれる仕事がAIに置き換えられることは今後たくさんあると思うのですが、99%の仕事がAIに置き換わっても、やはり最後に残った1%では、人々に感動を与えていくための感性的な判断をして、生み出し、顧客に提供するという部分を人間がやるべきだと思っています。


―――経営だけでなくAI時代の人間に残すべきものという文脈においても、感性を磨くための考え方は重要なのですね。


感性の磨き方は「体験の蓄積」


―――「これってイケてるの?」という感性的な判断をするために、感性はどのように磨いてきたのでしょうか。


小林:机上の空論ではなく「実際に経験しているか」がかなり大事だと思っています。

新しいテクノロジー、新しいトレンドなど、自分が本当に体験した「経験値」がストックされているかどうかが重要で、「イケてるか、イケてないか」は、結局そのようなものを体感していないと判断できないと思っています。オープンデータからでは判断できないのです。

具体的には、新たなテクノロジーやサービス、人に触れたり、普段街を見て歩いたりでも構いません。例えば、若年層のリサーチをするとなった時に、何百人単位でデプスインタビューをします。若い方々と繋がっているうちに、「こういう面白いことあるんですよ」といった情報が集まるようになって、自分は若者ではないけれど、客観的に若者の内情を把握できるようになり、自信がついてきます。

インサイトを見出す際に「これってイケてるのか」「消費者にニーズがあるのか」といったことを聞かれた時に、やはり勘で答える人と、本当に千人に会っている人とでは、判断に差が出ます。そこを客観的に自分が整理して、インパクト評価できるかどうかが大切になってきます。定量的なインパクトだけでなく、自分の体験に基づく定性的なインパクトの両側面でなぜ「イケてるのか」をクライアントに伝えられることが重要です。


―――「イケてる」とステークホルダーに感じてもらうためには何が重要でしょうか?


小林:心に訴えかける言葉にすることも重要になってきます。社会や生活者の価値観の変化や、企業が進むベクトルが的確でインパクトを明示できるようなワードに落とし込まれていることは非常に重要です。

現在取り組んでいるプロジェクトでも、「生活者の価値観がどう変わるのか」という予測に電通グループのリソースを利用していますが、電通グループはもともとコミュニケーションを得意としているため、「ワード」の重要性を認識しており、一緒に取り組むことで、よりクライアントが目指すグロースに対して明確に方向性を示すことができると私は思っています。


―――若手のコンサルタントに感性磨きたいならこれをやるべきというものはありますか?


小林:若手に限らず、ビジネスパーソンであれば誰でも、情報力、技術力、俯瞰力は常に磨き続けなければならないと考えています。

好奇心を持って色々なものを俯瞰的に見ること、そして好きなことを掘り下げていくこと。これらは感性を磨くことの重要要素です。ビジネス書ばかり読むのではなく、色々な分野の本、たまには流行りの本を読んでみる、なども良いですね。

また、人脈から生まれる体験も重要で、自分の成熟を促すような人が「面白い」と言ったことにはなるべく触れるようにすることもお勧めです。


「異能」人材を束ねるマネジャーとしての想い


―――未来予測を活用した支援事例はどのようなプロジェクトがあるのでしょうか?


小林:企業のパーパス策定や、数年後のマーケットの将来予測から、数百億円規模の事業を生み出す具体的な戦略や戦術を策定するといったプロジェクトがあります。このようなダイナミックな発想は、小さなロジックの積み重ねだけでは仮説が立てられない領域ですね。


―――仕事をする上で大事にしていることはありますか?


小林:当たり前ですが、「最後に評価するのは他者である」というところは常に意識しています。仮に自分でロジックが秀逸で、ユニークなアイデアだと思っていても、最後に評価するのはクライアントです。さらに事業として社会に出たときに評価するのはエンドユーザーをはじめとした様々なステークホルダーですよね。

また、コンサルタントとして大事にしているのは、情報力、技術力、俯瞰力3つの要素を常に磨くように心がけています。私は1つのことに入り込むと周りが見えなくなる傾向があるため、俯瞰力は特に意識しています。


―――異能人材を束ねるマネジャーとして、チームワークで意識していることはありますか?


小林:プロジェクトメンバーのスキルや志向性の棚卸しをするようにしています。「得意・不得意」「強み・弱み」という4つの要素を整理した上で、本人たちの自立性を促すようにしています。

本人の適性を考慮せずにタスク至上主義で進めることで、「タスクのこなし屋」状態になるのは避け、自らが「こうしたい」と思う自立的なマインドに対しては、できる限り応えられる場作りを演出することも、私の1つの役目だと思っています。それは訓練のためではなく、プロジェクトを成功させるためには、それぞれのメンバーが得意な領域で効率的に活躍してもらうことが重要だと考えているからです。

プロジェクトとしての目標は常に見失わずに、自立的なマインドを持って自分たちで論点やタスクを設計していくという構造を作ることが、チームプレイにとってすごく大事だと思っています。現実は毎日のようにいろんな課題が、降りかかってくるわけで、そんなうまくいかないですけど(笑) 根底にはそのような場が理想だという想いがあります。


―――電通コンサルティングへマネジャーとして入社されて、やりがいを感じる瞬間はありますか?


小林:私が素晴らしいなと感じているのは、「異能人材」が色々な分野から集まっているところです。正直、業界未経験の方が多く、最初は大丈夫かなと不安になりましたが、高い潜在能力が見受けられる人が多いです。

様々な能力や意見を取り込むことで、今までにない議論や仮説が生まれるという点で、これらの異能人材や電通グループの方々と働くことはマネジャーとしてやりがいを感じます。他の企業でのマネジメントとはちょっと違う新しい新鮮さみたいなものがあります。


―――電通コンサルティングのプロジェクトで特徴的なポイントはありますか?


小林:一貫して「未来」を見据えている点ですね。

これだけ未来が不確実な時代の中で、自分たちがどういうスタンスを取ればいいのか、誰しもわからないですよね。だからこそ、スタンスを明確にした企業パーパスを策定したい企業が増えている状態になっているのではないかと考えています。

そのような企業に対して、例えば「社会・生活者の価値観の変化によって自社を取り巻く産業構造はどのように変化していくのか」といった、一緒に未来を考える「土俵」を提示し、そこに対してクライアントが意見を出しやすい場を作ることが大切で、電通コンサルティングではこのような多くの未来予測に関するプロジェクトの実績を持つ点が特徴的であると感じています。


後編はこちら >>


●今回インタビューした方

小林 勝司
電通コンサルティング マネジャー

小林 勝司

広告会社にてクリエイティブ部門・マーケティング部門に従事、コピーライターを経て、デザイン思考に基づいた消費者動向分析を推進し新たな事業機会の創出に貢献。
その後、大手電気機器メーカーのシンクタンクにて未来社会研究と新規事業開発に従事し、長期ビジョン策定に向けた未来社会コンセプトの明確化や、社会潮流起点による新規事業開発に参画。
美大のデザイン専攻のバックグラウンドとマーケティング領域での経験を活かし、感性・アートと論理・サイエンスの両面から、答えの出しにくい課題に取り組むことを得意としている。


小林のプロフィールについて詳しくはこちら >>