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【インタビュー】「自分が腑に落ちた体験から仮説を出していきたい」パラレルキャリアで磨く「自分なりの解き方」とは

今回は電通コンサルティングでプリンシパルを務め、パーパス&デザインの領域をリードする加形 拓也のインタビューの後編を新人アナリストからお届けします。前編をまだ読んでいない方はそちらもぜひご覧ください。

※インタビュー内容、所属、役職は取材当時のものです。(2022年6月取材)


前編はこちら >>


目次[非表示]

  1. 1.途上国支援NGOで得た課題意識と「知の商社」電通への入社
  2. 2.「自分が腑に落ちた体験から仮説を出していきたい」と世界100か国以上を回る
  3. 3.パラレルキャリアで得た「自分なりの解き方」
  4. 4.「パラレルキャリア」における苦労
  5. 5.優れた技能や異なる専門性を掛け算するチームビルディング
  6. 6.「外の人」だからこそ見つけられることに踏み込み、クライアントの勇気に寄り添う


途上国支援NGOで得た課題意識と「知の商社」電通への入社


―――電通に入社するまでのお話も教えて頂けますか?


加形:就職活動中、優れた広告が世の中を前向きにしている例をいくつか知るにつけ、コミュニケーションの戦略について考えることは、人間くさい「頓智」が効いた営みで面白いなー、と思ったことがきっかけで電通に入社することになりました。

もともと学生の時は開発経済学を専攻しており、将来は途上国支援のNGOや国際機関で働きたいという想いがありました。在学中もインドやインドネシアの農村支援にあたるNGOでのインターンをしていたんです。ただ、多くの国際機関、NGOが資金繰りに苦労しており、サステナブルに活動を続けるにはビジネスのモデルが必要であること、また、長く活躍するにはなんらかの専門性を身につけることの大切さにも気づきました。

そのような経緯から就職活動ではグローバルな仕組みをつくる商社などに興味を持つようになり、更に課題意識が深まっていくうちに、上記の理由で電通にも興味を持つようになりました。電通もメディアに「コミュニケーションの知恵」という付加価値をつけて流通させる、という点で商社と似ていると考えたのです。電通を「知恵の商社」という風にとらえ、ここで6-7年修行したらあらためて国際機関やNGOに行こう、と考えて腰掛のつもりで入社しました。ただ、電通での仕事が予想外に面白く、働き続けているうちに今に至ります。


「自分が腑に落ちた体験から仮説を出していきたい」と世界100か国以上を回る

スペイン・バスク州にて

スペイン・バスク州にて


―――今でもNGOや国際機関への想いはあるのでしょうか?


加形:想いはありますが、国連などの組織に勤めなくても、社会に貢献して専門性を活かせる仕事の仕方がいくらでもあると気付きました。途上国支援関連の仕事も電通グループのメンバーとして数多く取り組むことができています。組織に縛られない、このような仕事や働き方があるというのは、学生の時にはわからなかったことです。


―――加形さんは自治体の非常勤職員もされているのですよね?


加形:はい、きっかけは2011年に大手旅行代理店さんと一緒にはじめた「地域観光マーケティングスクール」という合同事業です。各地で住民のみなさま、ホテル経営者、自治体職員とのリサーチやワークショップを行いながら一緒に地域の宝になりうる種を見つけ出して、旅行商品をつくる仕事です。電通での商品開発の知見を活かしたわけですが、そのような取り組みの中で、地域の振興に興味を持つようになりました。

​​​​​​​その後、石破茂氏が初代の地方創生担当大臣に就任し、中央官庁の職員や一部民間企業の社員を地方自治体に副市長などとして派遣する「地方創生人材派遣」という事業がはじまりました。その一環として、富山県の上市町に自分も派遣され、非常勤のアドバイザーとすることになりました。
自分の時間の20%程度を投入しながら町役場の職員として約3年つとめ、今でも活動の中で設立されることになった古民家ゲストハウスの運営に関わっています。
また、これもひょんなご縁で今は茨城県の小美玉市という町で顧問(シビックDXディレクター)として活動しています。


【参考】「地方で求められる「広義のシビックテック」って?」電通報

【参考】「デジタルのノウハウで“移住”を促進!上市町の試みとは?」電通報


―――東京大学との共同組織である「共創イノベーションラボ」では主任研究員をされていますね。どんな研究なのでしょうか?

加形:地域で非常勤職員としてさまざまな取り組みをする中で、自分が取り組んできた商品開発やマーケティングという領域はもっと可能性があり、同時に、自分の専門性がごく狭いことを痛感しました。そこで2016年に東大で都市工学という分野の研究を行う大学院に入学し、広くまちづくりについて学ぶとともに、マーケティングと都市工学をクロスさせていくような研究活動を行っています。

指導教官であった先生方と立ち上げた「共創イノベーションラボ」で、研究員という肩書でプロジェクトの引き合いをいただくこともあります。ラボではさまざまなテーマについて扱いますが、主に民間企業が構想する新規事業とまちづくりの交点をさぐる研究活動やワークショップなどを行っています。


【参考】「共創イノベーションラボ」



―――地域で得たご縁が新たな取り組みに繋がっているのですね。仕事以外の面で、地方での活動によってご自身の生活に何か影響はありましたか?


加形:さまざまな地域で暮らしている人たちと仕事をし、その中で生活についての価値観についてもふれることで、家族を含む自分自身がどのような場所でどのように暮らしていきたいのか、ということについて非常に意識するようになりましたね。もともと、仕事においても「自分が腑に落ちた体験から仮説を出していきたい」と想いを昔から持っています。そういうこともあって、学生時代から、世界中を旅しながら地域の勉強をしたり、試しに数か月暮らしてみたり、ということを繰り返していて、今まで100か国以上に滞在しています。

2017年にはしばらく仕事を休み、一家4人で世界一周の旅にも出ました。これまではその経験を仕事に活かすことしか考えていませんでしたが、地域と関わる仕事をすることで、自分の体験を仕事に活かすだけではなく、生活そのものも変えていきたい、と強く思うようになりました。

そして、2017年に、神奈川県の三浦市を「ここが世界一素晴らしい町だ!」と思い、古い家を買ってしまいました。今はもともとの築地の拠点と行ったり来たりしながら暮らしています。多くの方に三浦市に来てほしいと考え、富山で得たノウハウも活かして三浦市でもゲストハウスの運営に関わったり、趣味でやっている相撲の仲間、地元の仲間と一緒にビーチで「ビーチ相撲大会」を開催するなど、海辺の町の暮らしを堪能しています。


三浦海岸で行われたビーチ相撲大会

三浦海岸で行われたビーチ相撲大会


【参考】「ビーチ相撲」NBSA



パラレルキャリアで得た「自分なりの解き方」

加形:話を戻すと、今日のテーマは「自分なりの解き方」でしたね。

最後に触れておきたいのは「NPOの活動にもっと注目してほしい」ということです。先進的なNPOの中には、社会課題に対して、たとえ不十分な経営資源でもなんとか切り込んでいって課題を解決し、結果、民間企業も参入するようなビジネスモデルまで生まれるという成果をあげているところも数多くあります。お話を伺うにつけわくわくしますし、これからは非営利団体のセクターに注目するべきだと強く感じます。ただやはり多くの団体がヒトモノカネの経営資源に恵まれないという課題があります。

そこで10年ほど前に仲間とプロボノ(※)団体をつくり、チームでNPO団体のマーケティングサポートを行う取り組みを始めました。この団体そのものも今はNPO法人になり、これまで60団体、延べ350人の有志と活動しています。ここで知り合った方と本業のプロジェクトで仕事することも多くなっています。

※プロボノ…社会的・公共的な目的のために、各分野の専門家が職業上のスキルや専門知識を活かして取り組むボランティア活動


【参考】「「プロボノ」って、流行ってるけど実際どうなの?数多のNPOをサポートしてきた電通マンが語り尽くす」2枚目の名刺Webマガジン


「ある領域について知りたいが誰に聞いたらいいかわからない」というとき、一緒にプロジェクトをした経験がある方や、ある程度信頼関係のある方にすぐに聞けるのはビジネスでも強いですね。もちろんそのためにやっているわけではないです。自分は他のメンバーに比べ、ロジックや頭の良さでは勝てないと思っているので、これらの繋がりが「自分なりの解き方」に結果的になっているかなと思っています。


「パラレルキャリア」における苦労


―――色々な取り組みで得た経験を、他の領域でも活かしているのですね。一方で色々な取り組みをすることで沢山の苦労をしてきたのではと思うのですが、例えば時間的にひっ迫するようなことはありませんでしたか?


加形:工夫してなんとかやりきれるようにしたいと思っていますね。というのも、専門性が高く、また「地頭の良さ」がためされるようなマーケティングプランナーとして、あまりにも優秀な周りに比べ、自分の能力のなさに絶望していた時期があったのです。まだまだ何十年も仕事を続けていかなければならない中、自分が生き残っていけるとは思えず悩んでいました。

つらい時期は数年にわたって続きましたが、ある時に自分が時間を費やしていた地域での仕事やNPOでのプロジェクトでの経験のおかげで「人とはちょっと違った仮説」や「いろいろな立場で仕事をしてきたからできたプロジェクトの設計」という形で実を結ぶ経験があり、救われた思いがしたのです。

いろいろな立場で仕事やプロジェクトを進めるのは忙しいは忙しいですが、それぞれで得た経験は関係しあって相乗効果が出ていると思うので、この環境や立場が違う仲間は大切にしたいと思っています。


優れた技能や異なる専門性を掛け算するチームビルディング


―――プリンシパルとして、どのようにチームや会社に向き合っていますか?また、チームビルディングで大事にしていることはありますか?


加形:電通コンサルティングには肩書に関係なく、とてつもなく優れた技能を持つ人たちがいます。メンバーのもつ専門性全てを凌駕することや、理解することは難しいと思っているので、自分のできることでチームに何かしら貢献できるところがないか考えるようにしています。

自分ができることは、例えば、少しちがった視点でビジョン(将来像やストーリー)を描くことや、プロジェクトメンバーが安心して取り組めるようにプロジェクトの進行を工夫すること、違った角度からの問いかけをすることで専門家同士の会話のきっかけをつくり、専門性を掛け算することができないか、といったことを意識しています。


「外の人」だからこそ見つけられることに踏み込み、クライアントの勇気に寄り添う


―――そのようなチームで、クライアントを支援するときに大事にしていることはありますか?


加形:クライアントも同じチームだと考えていますね。ここまで大いなる実績を積み上げ、結果として大企業となった会社が、まさにいまイノベーションのジレンマに苦しんでいます。新しいものを生み出したいけど、今までのビジネスの存在感が強くてどう進んでいいのかわからない。非常にもったいない。

しかし、クライアントと一緒にプロジェクトを進め、さまざまな会話を重ねていくと、ここまで生き残って大企業になってきた「凄み」をみつけ、その凄みをこれからの社会に活かしていく方法を考えることができます。中の人では見つけられない部分が必ずありますが、そこは大きな会社の中では見えにくくなっていることが多いので、いかに怖がらずにそこに踏み込めるかを意識しています。

電通コンサルティングはパーパスとして「外なる当事者として企業と人の『勇気』に寄り添い、ともに成果を創出する。」ことを掲げています。新生電通コンサルティングに生まれ変わるにあたり、この「勇気」という言葉は私が提案しました。

クライアントの中には、突出した専門性と社会貢献の意識を持ち、それだけに今の会社への課題感を抱えている方がたくさんいらっしゃいます。プロジェクトを誠実に進めていくと、このような方との出会いが必ずあり、こちらも背筋がのびるような思いにさせられます。

その方々に「これこそやりたい。これで社会を変えられる」「これなら進められる。会社も変わる」と信じていただける作戦を一緒につくる。それがクライアントに「勇気」を持っていただくということです。「勇気」をもって踏み出す企業が増えていくことで社会が前進していく、その一部に貢献できれば、と思い仕事に取り組んでいます。


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●今回インタビューした方

加形 拓也
電通コンサルティング プリンシパル

電通コンサルティングプリンシパル 加形拓也

電通マーケティング部門~電通デジタル~電通コンサルティングで保険会社の2050年構想/自動車会社のスマートシティ構想/食品企業の新事業など、企業の事業デザインをサポート。都市工学をバックグラウンドとしたコンサルティングと縦割りを打破していくファシリテーションが得意。
電通相撲部主将。右四つ。得意技は下手投げ。


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