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「福井の壮大なビジョンの駆動に寄与した同志の出会い【ふくいのデジタル×電通コンサルティング】」

輝かしい成功に至るまでの人々の葛藤や奮闘には、無数のドラマがある。前例のないプロジェクトを推進している立役者に寄り添う対談シリーズ『Behind the Scenes』。

シリーズ第1回目のテーマは、福井県のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進を加速化させた同志との出会い。

ふくいのデジタルで代表取締役副社長を務める島田 琢哉さんと電通コンサルティングで専務執行役員 シニアパートナーを務める杉本 将隆が、2人の出会いから新会社設立までの奮闘とそれを乗り越えるための3要素を語ります。


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目次[非表示]

  1. 1.出会いが紡いだ事業構想
  2. 2.DNAの違いが招く共創の壁
  3. 3.事業共創における重要な3要素
  4. 4.新聞社と銀行、2社だからこそ創出できる価値


人口減少や高齢化、地域の活力が失われつつある。その一方、デジタル技術の進展やスマートフォンの普及により多くの生活者と接点を持てる環境が整っている。

その環境下でいち早く地域版スーパーアプリを構築し、地域のDXを官民連携で推進している民間企業がある。それが福井新聞社と福井銀行が2022年に共同で設立した事業会社『ふくいのデジタル』だ。

地方新聞社と地方銀行が対等出資で事業会社を設立、地域経済活性化を推進しているのは全国初。さらに、デジタル地域通貨導入後の本格的なサービスローンチからわずか約5か月後の2024年3月31日時点で県民の約20%にあたる利用者数約16万人、加盟店約4300店と急成長を遂げている。
 
その立役者が、現在、ふくいのデジタルで代表取締役副社長を務める島田 琢哉さんだ。もともと福井新聞社でインターネットを活用した情報発信やデジタルマーケティング領域において豊富な経験を有している。
 
新聞社時代に地域ID(※1)ビジネス構想を胸に秘め、新会社設立までに奮闘した背景を振り返る。


(※1) 地域ID…地域の企業が連携し、バラバラのデータを地域生活者起点で個人ごとに統合したもの。


地域IDを起点としたプラットフォーム事業とは? >>


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対談内で取り上げているイベント年表


出会いが紡いだ事業構想


地域IDビジネスの先達である杉本との出会い


2016年に福井新聞社と福井銀行は地域活性化の基盤づくりで業務提携し、その一環として県内のキャッシュレス推進を目指した電子マネーカード『JURACA(※2)』を発行した。『JURACA』を検討する中で島田さんは「杉本さんという地域IDビジネスの先達がいる」という話を耳に挟んだ。自身の目指す理想を先に実現した先達と会い、意見を交わす日を心待ちにしていたという。

(※2) JURACA…ジュラカ。クレジットカードに、電子マネーの『QUICPay』と『nanaco』、地域サービス等を搭載した多機能型カード。福井県の『ふるさと県民カード』第1号に認定されている。


聞き手:島田さんと杉本さんの出会いのきっかけを教えてください。


島田:実は、杉本さんのことは一方的に前から存じ上げていました。『JURACA』のサービスを検討している際、当時お付き合いのあったビジネスパートナーから、「杉本さんという先達がいる」と伺いぜひお会いしたいと思っていました。

私自身の体験上、地域でIDビジネスを目指すのは大変だと思っていて。私たちが目指す像をずいぶん前に具現化されている方がいらっしゃるという話を聞いて、自分の理想を実現するためには、支援も乞いながら一緒に議論をさせてもらえる方ではないかとずっと思っていました。


杉本:実際にお会いしたのは『JURACA』発行後でしたね。私はこれまで『nimoca(※3)』をはじめさまざまな地域IDビジネスに取り組んでいたので、共通のビジネスパートナーを通じて島田さんから連絡をいただきました。2018年に初めてお会いして、そのときは島田さんの描く構想のディスカッションパートナーとして意見交換をしていました。

(※3)nimoca…西日本鉄道の完全子会社である株式会社ニモカが発行する、九州を中心とした各地域の鉄道・バス事業者で導入されているサイバネ規格のICカード乗車券。


島田:縁があってお会いできましたね。


杉本:そうですね。初めてお会いしたときは、ここまで志が高く、実行力を兼ね備えているイノベーターがいるのかと感心しました。熱いパッションと冷静な洞察力、おちゃめな人間性に触れて、今後必ず一緒に仕事をしたいと島田さんのファンになりましたね。


「地元福井のために」本格的な協業のはじまり


島田さんと杉本の2人は、出会ってからは友人として地域IDビジネスの意見交換をする間柄だった。2020年、福井新聞社と福井銀行による地域活性への取り組みをさらに加速化させたい、福井県のために奮闘してきた島田さんの強い思いが杉本との地域共創プラットフォーム事業(※4)構想へと発展する。

(※4)地域共創プラットフォーム事業…地域事業者が連携し利用者(地域生活者IDを持つ消費者とサービス提供者)を結び付ける基盤を提供するビジネスのこと。

聞き手:杉本さんと出会った当初は意見交換をする仲でしたが、そこからどのように地域共創プラットフォーム事業構想の協業に至ったのでしょうか?


島田:もともと福井新聞社では、2011年から地域IDビジネスを自社で取り組んでいました。しかし、新聞社のサービスというよりも、もっと福井県全体のサービスにしていきたいと、2016年に福井銀行と『JURACA』を立ち上げ、共創による地域IDの確立に挑戦してきました。さらにこの取り組みを1歩先に進めていきたいという想いがあり、2020年に経験豊富な杉本さんに戦略構想の具体化でご協力をお願いしました。


杉本:初めて会ってから、年に数回定期的に情報交換や会食をするなかで、『JURACA』の次世代発展形としての福井モデルを2人で妄想してきました。地域通貨の成功要件として行政機能や交通機能が必要不可欠であることや、官民連携組織を別で設立した方がよいことについて解像度を上げていき、実際の協業に至りましたね。

島田さんとは同じ志を持ちつつも、私とは違う個性やアプローチをお持ちであるため、「島田さんだったらどう考えるのだろう?」という問いをぶつけ合える、いい意味で緊張感を持っていることで、会うたびに新しい発見があり、また関係を長く構築することができ、今同じ志のために協業ができているのだと思います。



DNAの違いが招く共創の壁


新聞社と銀行、2社間の協業におけるすれ違いと目線合わせの連続


福井新聞社と福井銀行、ともに、地域の発展と地域に暮らす人々の豊かな生活を実現することを企業理念に掲げる。目指す先は同じだが、なぜかうまくかみ合わない。両社にはそれぞれのやり方と正義があり、そこに正解はない。歩みを先に進めるためには何が必要なのか?


 
聞き手:両社同じ方向を向いていたとしても、考え方の差はあったのでしょうか?


 
島田:良し悪しの話ではなく、報道機関と金融機関とでは、当然DNAというか、考え方の起点が異なる組織体だと思っています。確かに「地域のために」という想いは両社合致していました。しかし、それぞれ本業に立脚して物事を考えてしまい、地域のために今何をすべきか、同じ目線で考えることが難しい局面があったと思っています。


 
聞き手:本業に立脚した考え方とは、両社で特徴的な考え方はあったのでしょうか?


 
島田:前提とウエイトを置く部分の違いですね。まず、福井新聞社側としては、もともと会員管理の仕組みを全国の地方紙よりも先駆けて導入をしていたこともあり、地域IDを自社で管理し、それを起点に個人に最適化されたさまざまなサービスを提供していきたいという気持ちがありました。その理由としては、新聞社の場合、世帯ビジネスを個人ビジネスに変えていくという必要性を強く感じており、その取り組みを進めていたからです。

他方、福井銀行の場合は、すでに口座で個人ユーザーと接点を持っていたので、そもそもの地域IDビジネスに着手する意義を感じていなかったというのはあると思います。

また、私たち新聞社は、地域IDを飛躍させる目的のための機能の1つが地域通貨という捉え方をしていました。人が行動するきっかけ、手段は地域通貨だけでなく、たとえばニュースやクーポン、スタンプラリーやイベント等多岐にわたると考えているからです。しかし、決済のプロフェッショナルである金融機関にとっては、地域通貨が事業としてしっかり成り立つのか、ということにウエイトがありました。どちらも重要な協議ポイントですが両社がウエイトを置く部分が異なっていたことで、認識合わせが最初のうちはうまくできなかったと思っています。


ふくいのデジタル 代表取締役副社長 島田 琢哉さん


事業共創における重要な3要素


まず、明確な事業構想、次に、トップ同士の目線合わせ


過去の協業を振り返ってみても、必ずトップ同士で協業への想いを共有するプロセスを踏んでいた。まずは地域の責任ある企業のトップとして地域のために何をするのか、明確な事業構想を用いて両社での取り組みを再確認し、醸成を図っていく必要性を感じたと島田さんはいう。


聞き手:両社間の考え方のギャップを埋めるためにどのような働きかけをされていたのでしょうか?


島田:共同で事業をする場合、やはりトップ同士に理解をいただく必要があると思いました。以前に協働した『JURACA』の取り組み当時を振り返ったのですが、その時も両社トップ同士で地域の価値を創造するという想いを共有、確認してもらったことがありました。

そのプロセスを正直踏んでいないと感じましたね。地域における責任ある企業としてどういうことが必要か、経営者にしかわからない目線があると思ったので、トップ同士で想いを共有するために杉本さんに両社向けの目線合わせの事業構想書をつくっていただきました。


聞き手:島田さんから相談があった際、両社の協業をスムーズに推進するためのキーとなるアクションは何だと感じましたか? 


杉本:1 つは、目に見える事業構想が必要ですね。それがないと何をもって話をしているのか人によって捉え方が変わってくるので、目線を合わせるために事業構想が必要不可欠です。
 
もう 1 つは、やはり大きな地域の会社対会社の取り組みなので、明確な事業構想を基に両社トップ同士で目線合わせをし、取り組みへの共通認識の形成をすることが必要です。
 
島田さんは両方ともよくわかっていて、前者については、私たちに形にしてほしいとご依頼いただき、事業構想書をつくりました。後者に関しては、福井新聞社で講演をさせていただき、また役員会でご説明させていただき、醸成を図っていきました。おそらく、島田さんは役員のみなさまにさらに意識を持っていただくことで、両社トップ同士の目的の再確認につなげられると考えていたのではないかと思います。


電通コンサルティング 専務執行役員 シニアパートナー 杉本 将隆


島田:まず新聞社としてはこれだけ本気で考えていて、それは決して自社のためだけではなく、地域のためそして協働する相手の福井銀行のためにも考えているということが伝わるよう、精緻な事業構想書をつくっていただきました。

新聞社と銀行は福井の財界における活動も一緒に取り組んでおり、トップ同士は福井のためにどういう活動ができるのかということを真剣に考えておられると思っていました。よって、この事業構想の話も大局観に立って考えてもらえるだろうと期待していましたね。


最後に、何が何でも成し遂げる覚悟のあるイノベーターの存在

事業を率いていくのはトップだけではなく、現場のリーダーたち。本業を抱えながら、新しいことにチャレンジしていく、そこには並外れた推進への想いとハードルを打破していくイノベーターが必ず存在する。
 
杉本:目線合わせのための目に見える事業構想とトップのリレーションの他に、もう1つ重要な要素がありますね。それは、事業を推進するうえでは、島田さんのような核となるイノベーターが必ず存在します。ずっと前から地域のために地域IDを管理しプラットフォーム事業を実現したいと言っていたので、島田さんなくして今のこのビジネスはないと思います。
 
島田:新聞社は紙媒体のイメージが強いので、デジタル IDというと 1 番縁遠い業界だと思われることも多々あります。ただし、福井新聞社の特徴的なところは全国的にも世帯普及率が高く、一方で自社ホームページの閲覧者数も全国の地方新聞社でトップクラス。必ず紙もデジタルも、全国の地方紙でもトップを走っていくという強い思いがあります。会社としてもそうした一貫した考え方を持ってもらっていました。駆け出しの新聞記者からデジタル部門の新規事業に移った10数年前から、社長や役員をはじめ会社のみなさんに支えてもらいながら取り組めたことが大きかったと思っています。 

確かにこの地域IDビジネスに取り組んでいるのは、全国的にはまだ少ないかもしれません。しかし私はイノベーターというより、福井新聞社の特長として掲げた理想のためにさまざまなチャレンジをさせてもらえたところが大きいと思っています。


3要素が揃っていたからこそ進み始めた新会社設立 


新会社設立に向け動き始めたが、先行投資への不安も大きく、現場の議論でも紆余曲折することが多々あった。しかし、どんな局面でも3要素が揃っていたからこそ前進することができた。
自分たちは本来何のために地域共創プラットフォーム事業を志しているのか?どんな困難があっても、必ず想いをともにした相手との原点である事業構想書を振り返れば答えがある。トップ同士が想いを共有しているからこそ、推進を後押ししてくれる。推進は一筋縄ではいかないが諦めず困難を打破していくイノベーターがいる。
 
島田:新会社を設立し地域共創プラットフォーム構築を急ぎ、国全体で進みつつあるDXの流れを福井県で着実に進めていくべく、両社で話をしていました。新型コロナウイルス禍でよりDXが注目を集める中、そのためにはリスクを負い先行投資をする必要がありました。

途中、これはもう無理かもしれないと考えたこともあり、本当に紆余曲折ありましたが、最初に地域のために福井銀行と福井新聞社が何をやりたいのか、事業構想書によりトップ同士で目線合わせをしたことが結果的に後押しになったと思っています。最終的に何かあったときに原点に立ち返るバイブルとして、この事業構想書が非常に支えになりました。

 
杉本:どんなときでも、どうすればできるのか、全力で推進するイノベーターである島田さんもいらっしゃいますしね。3つの要素があったからこそ、どんな困難があっても歩みが止まることなく今に至っているのだと思います。


新聞社と銀行、2社だからこそ創出できる価値


地域の報道機関と金融機関がタッグを組むことによるシナジー


目指す理想は同じでも、歩みを進めるうえで考え方や文化の違いもあった福井新聞社と福井銀行。それでもお互い寄り添い、実現のためには何が必要か、とことん向き合ってきた背景には、地域に根差し長年地域に住む人と歩んできた民間企業2社だからこそ担える役割があるからだ。


聞き手:地域に根付く報道機関と金融機関がタッグ組むことによって、2 社だからこそ創出できる価値とは何でしょうか? 


島田:銀行と新聞は似ていると思っていて。要は福井に根ざし、新聞社は各地域に販売店があり銀行は各市町に細かく支店があって、地域に対して同じようなアプローチをとるビジネススタイルですよね。業種も考え方も違うかもしれないですが、同じプロセスを踏んで地域で事業を推進しているので、地域活性に向けた事業共創において親和性が高いのではと思っていました。

また、お金と情報は生活者や事業者の日常に欠かせないものという単純な考え方もありました。両社を一括で提供できるようなサービスがあれば面白いビジネスになるのではないかという発想も起点になっていましたね。 


杉本:新聞社は人々の生活において起点となる情報を持つ報道機関であり、銀行は決済機能を持つ金融機関です。その2社が協働することで人々の生活におけるカスタマージャーニー(※5)の最初と最後の機能をおさえることができます。情報を得てから決済に至る中で、移動、物販やレジャー、エンターテインメントはすべて包含されるので、地域の生活をすべて網羅できるのではないかということですね。
 
(※5)カスタマージャーニー…顧客が商品やサービスを知り、購入・利用意向をもって実際に購入・利用するまでに、顧客がたどる一連の体験を『旅』にたとえたもの。
 
もう 1 つは、そのカスタマージャーニーの中でさまざまなデータが創出されます。地域IDを軸にして情報から決済まで一気通貫でプラットフォームを構築できれば、すべての地域内のデータをおさえられ、情報と消費の地産地消型のモデルをつくることができるのではないかという意味において、新聞社と銀行の組み合わせは、最高だし最強だなと考えていますね。


「新しい事業を共創するためには、ロジックの積み上げに加え、何が必要か?」
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●今回インタビューした方


島田 琢哉さん
ふくいのデジタル 代表取締役副社長

1977年生まれ。福井県勝山市出身。国際基督教大卒。2001年福井新聞社入社。編集局政治部記者等を経て2006年から一貫してデジタル・新規事業に従事。デジタルコンテンツ室、編集局デジタルラボ、経営企画局、新規事業開発室等を経て2023年6月からクロスメディアビジネス局新規事業担当部長。2010年(一社)共同通信社出向。福井銀行との共同出資会社『ふくいのデジタル』代表取締役副社長(2022年9月~)。福井県勝山市地域経済振興会議委員(2021年~)、かつやま創生プロモーター(企業誘致アドバイザー)(2023年~)。東京や福井の多くの企業の経営戦略や新規事業に助言するアドバイザーとしても活動中。趣味は麻雀とドライブ旅行。


杉本 将隆
電通コンサルティング 専務執行役員 シニアパートナー

シリアルイントレプレナー&事業創造コンサルタント&アントレプレナーシップ教育家の3つの顔を持つ。慶應義塾大学総合政策学部卒業後、大手鉄道会社に就職。複数の新規事業立ち上げを経験。九州大学ビジネススクール在学中に、デロイトトーマツコンサルティング合同会社に移り、B2C向け新規事業・CRM戦略チームを6年間リード。PwCコンサルティング合同会社では、地方創生チームと地区事務所を立ち上げ統括責任者。2019年9月より電通グループのコンサルティング事業バリューアップのため参画。九州大学QREC客員教授(ニュービジネスクリエーション)、亜細亜大学ビジネススクール講師。中小企業診断士、1級FP技能士、経営学修士。


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